1990年代半ばの日本。オウム真理教が起こした松本サリン事件と地下鉄サリン事件そして阪神大震災。立て続いて発生した大事件に大災害。これらが日本社会の空気を微妙に変化させつつあった。

二つの事件と震災が起こるまでは、村山政権が誕生し、日本社会党の政治家が首相に就任するという、それまでの自民党が担っていた長い日本政治が、何となく左へ方向転換しつつある情勢であるように感ぜられた。しかし、二つのサリン事件と阪神大震災によって逆方向、つまり、右へと回転しだした。

そんな1990年代後半の日本のとある地方に、中学生の少年が生活していた。名を山田太郎という。ごく平凡でちょっとダサい名前である。父親は単身赴任で家におらず、祖父母の所有する家に母親と祖父・祖母と共に4人で住んでいた。裕福とは言えないが、貧乏でも無かった。平凡な日本の中流階層の家庭だと言えるだろう。

太郎は地元の公立中学校へ通学し、部活には入らず、特に何の目標も持たないで生活していた。